Fan Ficiton 「特別な一日」(5)

まだもうちょっと続きます笑


   

 どうにか夕食を終えたあとは、これも遊びながらなのでいつもの倍の時間がかかった入浴をすませた。二人共用の居間で髪を乾かしてやり、寝間着を着せると、ラインハルトも眠くなってきたのか、おとなしく座っている。
(そろそろ寝かしつけないといけないんだな・・・。絵本を読んであげたりしたらいいのか)
 絵本はフラウが用意してくれたものがあるので、それを持ってキルヒアイスは言った。
「そろそろ寝る時間だから、寝るお部屋へ行こうか、ラインハルト」
「うん」
 素直にうなずいて、目をこすりながら自分の部屋に入りベッドに座ると幼いラインハルトは言った。
「ねる前にはいつもねえさまがいっしょに本をよんでくれるんだ。今日はねえさまは?」
「あ、お姉さんは・・・」
 なんと答えるのがいいのか、キルヒアイスは言葉につまった。
「ねえさまは? ねえ、ねえさまはどこ? どこにいるの?」
 ラインハルトはたたみかけて聞いてきた。姉の姿が一日中見えないので、急に不安になったらしい。まだまだ母親のような存在が必要な年齢なのだ。眼にはもううっすらと涙を浮かべている。
(まずい、アンネローゼさまのことを思い出してしまった)
「う、うん・・・。お姉さんは、今日は出かけてて・・・」
「ねえさま、いないの?」
 ラインハルトの顔がみるみる歪むと、大きな蒼い瞳から真珠のような大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「ねえさまがいない! ねえさまがいないよう! うわああああん!!」
 母親代わりの姉を求めて火がついたように泣き叫ぶ幼いラインハルトの姿が胸に突き刺さり、キルヒアイスは思わずその小さな体を抱きしめた。胸の痛みはまるで物理的な痛みを与えられたかのように思えるほどだった。
(僕もアンネローゼさまに会いたいよ、ラインハルト・・・)
「ラインハルト、だいじょうぶ。大丈夫だから・・・」
 いったいどうやってなだめたらいいのだろう。いくら会わせてやりたくてもアンネローゼは皇宮の奥深くに居て、とうてい自分などには連れて行けるところではない。身内であるラインハルト自身でさえなかなか会えないのだから。
「僕がいるよ。僕がついているから、大丈夫・・・」
「ねえさまあ・・・ひくっ」
 ラインハルトはしゃくりあげながら泣き続けている。
(ごめんね・・・。まだ君をお姉さんのところに連れて行けない・・・)
 抱きしめることしかできない自分の無力さを思い知らされ、キルヒアイスも思わず涙をこぼした。
「きるひあいしゅ、泣いてるの・・・?」
 ふと、温かい小さな手が頬に触れる。ラインハルトはまだ眼にいっぱい涙を溜めたまま、乱暴にキルヒアイスの頬の涙をこすると言った。
「おとなのくせに、泣いちゃだめだよ」
 思わず笑ってしまった。
(僕もまだ大人じゃないんだけどな。でも小さい子から見れば大人に見えるか・・・)
 キルヒアイスも服の袖で涙でぐしゃぐしゃになったラインハルトの顔を拭いてやると、言った。
「お姉さんはね、今日はどうしてもラインハルトが寝る時間までには戻れないから、先に寝ていてって言ってたんだ」
「・・・そうなの?」
 ラインハルトはまだすすりあげていたが、少し落ち着いてきて、キルヒアイスをあどけない顔で見上げた。
「今日ちゃんと寝て、明日起きたら、お姉さんが来るから。ラインハルトが駄々をこねてたってお姉さんが知ったらがっかりするよ」
「うん・・・」
「ね、だから今日は先に寝ていよう?」
「じゃあ、きるひあいしゅもいっしょにねよう」
「うん。今日は僕が本を読んであげるからね」
 キルヒアイスはベッドに上がりラインハルトに掛け布をかけてやると、横にもぐりこんだ。そうするとラインハルトの家で眠った子供の頃を思い出す。昔はよく遊び疲れてふたり一緒に帰るとアンネローゼが迎えてくれて、それからこんなふうに眠ったものだ。
「よなかにこっそりいなくなったらだめだよ」
「うん、大丈夫だよ。ここにいるから」
「ぼくがねたからって、いなくなったらだめだからね」
「僕も横で寝てるから、安心して」
「うん。じゃあおやすみのキスして。ねえさまはいつもしてくれるんだ」
「うん、いいよ」
 金色の髪をかき上げると、子供らしく可愛らしいおでこにそっとくちびるで触れた。ラインハルトは枕に頭をあずけたまま、じっとキルヒアイスを蒼氷色の瞳で見つめると言った。
「きょうはあそんでくれてありがとう。きるひあいしゅはやさしいな」
 その言葉を聞いて、今日一日の苦労が報われた気がするキルヒアイスであった。
「またあそんでね。やくそくだよ」
「ああ、また遊ぼうね。おやすみなさい」


 昼間遊んだ疲れもあったのか、それからさほど長い時間もかからず、幼いラインハルトは眠りこんだ。すやすやと寝息をたてているのを確認すると、キルヒアイスは起こさないように気をつけながら、そっと寝台から滑り出た。
 まだ気になることがあったからだ。
(また戻るから、ごめんね)
 おやすみのキスをもう一度、その天使のような寝顔の頬にしてあげた。

(続)
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えりん

Author:えりん
塚銀を観て出戻り、急速にオタク&腐女子化がすすみ二次までやらかしています。宝塚にもハマり宙組雪組を中心に見ていますが、永遠の観劇ビギナー。二次ネタは腐やNL等雑多ですのでご注意ください。

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