Fan Fiction 「特別な一日」(3)

(2)の続きです;;


近くでフラウ・フーバーが呼ぶ声がする。二人がいつまでも降りて来ないので業を煮やして二階に上がってきたらしい。部屋の扉がノックされる音がして、朝食はどうするのか聞く声がした。どうしたものかと考えたが、このまま幼いラインハルトを部屋に閉じ込めているのは可哀想だし、幼い声や子供がたてる物音がフラウ達に聞こえてしまいそうだ。こっそり外に連れ出すにしても、彼女達の目にとまらずに連れ出せる可能性は低いだろう。
 キルヒアイスは中央突破を敢行することにして、大きなパジャマを着たままのラインハルトの手をひいて共用の居間に出た。
「おはようございます、フラウ」
「おはよう、赤毛さん。あらっ?! その子は? それに金髪さんはどうしたの?」
 前掛けをつけたフーバー夫人の目が大きく見開かれる。
「ラインハルトさまのいとこの子なんです。急に預かることになりまして・・・。ラインハルトさまは急用で出かけられたので、私が今日一日めんどうを見ることになったのですが」
 とっさに適当に言ったのだが、あまり細かいことにこだわらない夫人はあっさりとキルヒアイスの説明を受け入れた。
「あらそうなの。まあ、なんてかわいい子なんでしょう! 本当に金髪さんにそっくりだこと」
 夫人はすぐに幼児の愛らしさのほうに気をとられている様子である。ラインハルトは新たに現れた人間に警戒しているのか、キルヒアイスの手を握り締めて、後ろに隠れようとする。
「急だったので着替えもなくて、困ってるんです」
「男の子は小さい子のお世話には慣れてないわよね。そうね・・・、近所に子供がいる家があるから、服を借りてきてあげるわ」
 どうやら第一の難関は突破できたようだ。素直にフラウに言って良かったとキルヒアイスは胸をなでおろした。そしてフラウとご近所のネットワークに感謝した。


「ずっといえの中にいるのつまらないよ。そとにいきたい!」
 ようやく朝食を食べた後、二階に戻ってひとしきりキルヒアイスと遊んでいたのだが、飽きてきたのか、幼いラインハルトは言った。
「外? 公園がいいかな」
「こうえんもいいけど・・・。そうだっ、ゆうえんちに行ってみたい!」
「遊園地か・・・。今までに行ったことはあるの?」
 キルヒアイスの言葉遣いは自然に幼い子供に対するものになっている。
「ううん。父さまはいつもおさけばっかりのんでて、つれてってくれないんだ」
 そうなのだ。ラインハルトの父は、キルヒアイスの記憶にある中でもいつも酒臭い息を吐いて酔っ払っている姿しか覚えていない。そのせいで子供の頃は怖いおじさんだと思っていたものだ。そして優しい姉のアンネローゼの印象が強いせいであまり感じてはいなかったが、改めてラインハルトには母がいなかったことを思い出すキルヒアイスであった。
母親はラインハルトが物心がつく前に亡くなったと聞いているのだが、この年齢の頃にはもういなかったのかと思うのである。
 そういえば今まで三人でもそういった施設には行ったことがなかったと思う。これは良い機会なのかも知れない。
「じゃあ、行こうか。連れてってあげるよ」
「ほんと?! いこういこう!」
 邪気のない眼で嬉しそうに笑うラインハルトを見て自分もなんとなくワクワクしてくるキルヒアイスなのだった。


 オーディン郊外にある遊園地までしばらく地上車を運転して到着したのは、子供向けのアミューズメント施設が充実していると評判のところである。
門を入ると、きれいに刈り込まれた植栽があったり芝生の緑が広がっていたりと大きな公園といった様子だが、レンガの敷かれた通りを歩いていくと園の中央には大きな観覧車があり、その周辺にはカラフルに塗られた遊具が点在している。
 小さな子供向けの遊具のエリアに入ると、今日は休日ではないのでごった返すほど人は多くはないが、それなりの人出だ。乗り場には列ができているものもあった。子供を連れた女性たちが中心だが、なかには家族連れも混じっている。その中に昔ながらのコーヒーカップの遊具があった。
(ええと、こういう乗り物って身長制限があるんだったな。でもあれなら大丈夫だろう)
「あれに乗る? ラインハルト」
「うんっ」
 いかにも子供向けといった、かわいらしいデザインのカップになんとなく気恥ずかしい思いになりながら乗るキルヒアイスである。
カップが動きだすと、ラインハルトは大喜びでぐるぐるとコーヒーカップのハンドルを回すので、コーヒーカップはものすごい勢いで回転した。
「ちょ、ちょっと待って・・・、ラインハルト・・・っ」
 眼が回らないようにすることは、幼年学校でも宇宙酔いへの対応の訓練があったので慣れているのだが、地上でとなるとまた勝手が違った。キルヒアイスが慌てる様子がよほどおかしいらしく、ラインハルトは大笑いしながらますますハンドルを回す。
(これは幼年学校の対G訓練並みにきつい・・・)
 遠心力で席に押しつけられながらキルヒアイスは思った。
 ようやくカップが止まったものの、ラインハルトは降りるが早いか、また乗るほうの列へとキルヒアイスの手を引っ張る。
「また乗ろうよ、きるひあいしゅ」
「あまり続けて乗ると気持ち悪くなっちゃうよ」
「だいじょうぶだよ! ぜんぜんへいきだよ!」
 大変な一日になりそうだ。遊園地に連れてきたことを少し後悔しキルヒアイスは深い溜息をついた。


 三度続けてコーヒーカップに乗ったのだがいっこうにラインハルトは眼が回るようでもなく、元気いっぱいな様子である。
(さすがはラインハルトさま)
よほど優れた平衡感覚に恵まれているらしいとキルヒアイスは改めて感心した。
それからも二、三の遊具に乗ったのだがお腹がすいてきたので、公園のエリアに並んでいた屋台で何か買うことにした。
周囲を見まわすと芝生が広がっているエリアには、思いおもいに遅い昼食を広げている人々が座っている。
キルヒアイスもその一角に座ることにして、ランチ代わりに、リング状に切られたポテトの揚げ物とフランクフルトを買ってやった。
「熱いからやけどしないように、少し冷ましてから食べるんだよ」
「うん。ふーふーしたらいいよね」
 ラインハルトは素直にポテトに息をふきかけて冷ましている。
 若い青年が、小さな人形のようにかわいい子供のめんどうをみているのはよほど微笑ましい光景だったのか、近くに座っていたおじいさんが気安い様子で声をかけてきた。
「おや、赤毛ののっぽさんの子供かい? ずいぶん若いパパだねえ」
「ちっ違います!!」
 反射的に否定したが、不審がられるかもと思い、慌ててキルヒアイスはつけ足した。
「・・・兄弟です」
(こんな大きい子供がいるわけないだろっ)
 それとも自分はそんな風に見えてしまうのか・・・まだ十代なのに・・・と考えこむ赤毛の若者であった。

 軽いランチをすませたあともラインハルトと共に広い遊園地を回り、時間はあっというまに過ぎた。太陽は西に傾いてきている。それとともに急に風が冷たく感じられてきた。もともとオーディンは冷涼な気候なので、湿気が少ないせいもあり、初夏の頃でも夜になると肌寒く感じられる日もあるのだ。
「そろそろ暗くなるから、おうちに帰ろうか」
「もう帰るの? まだ遊ぼうよ」
 ラインハルトは不満げに頬を膨らませる。
「じゃあ・・・」
 キルヒアイスは遊園地の中央に立つひときわ目立つ大きな観覧車を指さした。
「最後にあれに乗ろう。きれいな景色が見れるよ。それから帰ろう、それでいい?」
「・・・うん」
 一日中走りまわって遊んだのでさすがに疲れたのか、ラインハルトも素直にうなづく。
 観覧車のゴンドラに乗りこむと、ラインハルトはキルヒアイスのひざの上に坐りこんだ。体温がじんわりと膝に伝わってくる。ずっと駆け回っていたために少し汗ばんでいる、子供らしいふくふくとした体だった。金色の髪がふわりと鼻先をかすめてくすぐった。。
(子供の体温って高いんだな・・・)
 そろそろ日が沈もうという頃合いだ。完全には暗くなってはいないが眼下の街にチラチラと灯が灯りはじめ、沈んでいく太陽が地平に広がるフロイデン山地と空を赤く染め上げている。
光と宵闇が入り混じった美しい光景と、膝の上には愛らしく、生命力の塊のような子供がいる。なんともいえない幸福感がキルヒアイスの胸の中にこみ上げてきた。
「ラインハルト、見てごらん、夕日がきれいだよ」
「ほんとだ! きるひあいしゅのかみの毛みたいに赤いね~!」
 ラインハルトは膝の上で体を振りむけるとキルヒアイスの髪の毛を思い切りつかんだ。
「いたたたたた・・・っ!!」
 ラインハルトの言う通り、夕陽と同じ色の自身の赤い髪を、無邪気に手加減なく引っ張られて、思わず悲鳴をあげるキルヒアイスだった。

(続)
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

えりん

Author:えりん
塚銀を観て出戻り、急速にオタク&腐女子化がすすみ二次までやらかしています。宝塚にもハマり宙組雪組を中心に見ていますが、永遠の観劇ビギナー。二次ネタは腐やNL等雑多ですのでご注意ください。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる